父と痴呆と筋力低下と

筋力が低下してきている高齢者にとっての危険は意外なところに潜んでいる。
危険というとちょっとした段差などに目が行きがちだが、そういうところは本人も気を付けていることも多く、実は割と危険度数は低いのではないかと思う。

うちの父の場合、椅子だった。
座りそびれて尻餅をつき腰椎を骨折してしまった。

幸い寝たきりにはならなかったが、痛みがあるため寝ている時間が増えていった。

寝ている時間が増えると筋力は着実に落ちる。
室内を移動するのにも杖から歩行器が必要になり、外出時は車椅子が必須になった。

何もすることもなく寝ている時間が長くなると、筋肉だけではなく、脳にも狂いが生じてくるのであろうか。
徐々に辻褄の合わないことを口にするようになった。

それから数ヶ月経ち、1ヶ月ばかり入院することになった。

入院中は至れり尽くせりだ。
医療機器を付けた状態なので自力で動くことが難しかったせいもあるのだが、座るときもベッドが電動で動いてくれるし、食事もベッドまで運んでくれるし、着替えもやってくれる。

そんな殆ど自力で動く必要のない生活で更に筋力は低下し、退院するころには歩行器を使っても歩くどころか、立つことさえ難しい状態になってしまった。

そして、脳はさらに狂いが生じた。
被害妄想と原因の分からない苛立ちが父を襲った。
暴言を吐き、手当たり次第に物を投げつけるようになった。

薬が処方された。
驚くほど大人しくなり、穏やかに話ができるようになった。

しかし、もう朝から散歩に出かけてた状態には戻らないし、呆ける前の状態にも戻らないだろう。

たかが尻餅、されど尻餅。
それだけで生活が一変してしまうのが高齢者なんだなと実感している。